ニコンミュージアム企画展「幻の試作レンズたち」(その5)2018年10月27日 06時12分

さあニコンミュージアムの「幻の試作レンズたち」の記事は今回で最後に。
関東圏の方はぜひ実際に足を運んでみてほしい。本年末までの展示です。次展示される機会はないかもしれません。

●Nikkor-O Auto 50mm f/1.2-1.4
Nikkor-O Auto 50mm f/1.2-1.4

なんともマニアックなレンズです。
Nikkor-O Auto 50mm f/1.2-1.4は、オシロスコープ撮影用として試作されたレンズです。
ナンノコッチャと思いますが、その昔、CRTに表示されたオシロスコープの波形を残す手段は「カメラで撮影する」という方法しかありませんでした。
工業系の方なら使ったことのあるオシロスコープ、今はデジタル化され、その波形も連続取得可能であり、CSV化して数値としても取得できますが、アナログ時代には波形を止める手段はアナログ的手法しかなく、その画像を撮影することで測定結果を保存していました。と言っても、自分も実家にあったTRIOのアナログオシロくらいしか経験はなく、学生時代既にデジタルが主流になりつつありました。
工業用レンズとしては、CRT Nikkorが存在しましたが、Fマウントでも試作されていたのですね。開放f値がf/1.2-1.4で、レンズ側の表記は1:1.2 A.R. 1:1.4となっているのが興味深いです。
また、フォーカスリングも距離表記ではなく、%となっていて、近接撮影に特化されているようです。


●Nikkor-P 105mm f/4  Macro-Nikkor 65mm f/5.6
Nikkor-P 105mm f/4  Macro-Nikkor 65mm f/5.6

Nikkor-P 105mm f/4 とベローズ

だんだんマニアックになってきました。RED BOOK NIKKORの世界に突入しそうな感じですが、市販化されたベローズ用ニッコール、Nikkor-P 105mm f/4ですが、試作品はレンズ先端にバヨネットが着いていて、マクロ撮影でおなじみの手法、レンズをリバースして取り付けたそのままの状態です。
そして、その下にはこれまたマニアックな、Macro-Nikkor 65mm f/5.6が。
Macro-Nikkorと言えば、大判のマクロ撮影用レンズとして存在しました。ご存知の方には釈迦に説法ですが、Nikonは等倍撮影までのレンズは、Macro(マクロ)でなく、Micro(マイクロ)という表記をしています。Macroは、Nikonでは等倍を超えた撮影倍率で撮影できるレンズにのみ、与えられる名称です。
正向でも逆向でも取り付けられる、というのがまたマニアック。


●広角単焦点レンズの試作品たち
広角単焦点レンズの試作品たち

これら広角レンズは、殆どが市販化されていますが、試作品は外観が異なります。35mm f/2.8も、自分も持っているNikkor-Sとは別の光学系で様々に作成されていたようです。


●Nikkor-D 15mm f/4
Nikkor-D 15mm f/4

市販版としては、1973年発売のNIKKOR-QD C Auto 15mm F5.6が存在しますが、こちらは1段明るい分、ミラーアップして装着しなければならず、使い勝手の面で難しいものがあったのでしょう。外付けファインダとか憧れちゃいますけどね。


●Nikkor-HD・C 13mm f/5.6  Nikkor-HD Auto 13mm f/8
Nikkor-HD・C 13mm f/5.6  Nikkor-HD Auto 13mm f/8

これまたマニアックな超広角レンズです。
13mmはNew Nikkor 13mm f/5.6として1976年に発売されていて、その後20年近く発売されたレンズですが、その試作品(左)はなんとも巨大なフードが後付されています。実際の製品にはこのフードはつかなかったようです。受注生産品だったそうなので、中古市場でもほぼ見かけませんし、あっても高価過ぎて買えないでしょう。
一方、f/8バージョンも試作されたようですが、1段暗い割にサイズがあまり小さくならず、市販化されなかったようです。


●Nikkor-TD Auto 20mm f/2.8  Nikkor-D Auto 20mm f/4
Nikkor-TD Auto 20mm f/2.8  Nikkor-D Auto 20mm f/4

Nikkor-TD Auto 20mm f/2.8は、この2年後に20mmではf/4バージョンは発売されていましたが、このf/2.8スペックは1984年まで発売されず、この当時なぜ発売されなかったかが気になります。右側のf/4は、New Nikkorの外観で発売されています。


●AI Nikkor 20mm f/2S
AI Nikkor 20mm f/2S

AI Nikkor 20mm f/2SはZ 7にマウントされています。f/2.8は上に書いたように、1984年以降現在に至るまでラインナップされていますが、f/2は市販化されませんでした。外観を見ても、ほぼ製品仕様と変わらない感じがしますが、なぜ売られなかったかが気がかりです。数が出ないと判断されたのかな? コンパクトで使ってみたい1本。
なお、現在はAF-S NIKKOR 20mm f/1.8Gが市販化されていて、三十数年の時を経て、やっと明るい20mmレンズが市販化されたことになります。


●標準レンズの試作品たち
標準レンズの試作品たち

50mmレンズは、カメラレンズの基本中の基本ですが、数多く試作されたことがわかります。その中には、伝説のNoct Nikkorの試作品があり、58mmの前には60mmがあったり(当時はf/1.2で50mmは難しかった)と、とにかく様々な試作がなされたようです。


●標準Zoom-Nikkorレンズたち
標準Zoom-Nikkorレンズたち

1963年に、その後長年に渡って販売されるZoom-Nikkor 43-86mm Auto f/3.5(通称ヨンサンハチロク/ヨンサンパーロク)が登場後、なかなか次の標準ズームは発売されませんでしたが、こうして40-85mmといった画角は試作されていたようです。

1975年には、New Zoom Nikkor 28-45mm f/4.5、1977年にはAI Zoom Nikkor 35-70mm f/3.5が発売されており、この試作品たちは、その商品化への足がかりとして役に立ったことでしょう。


●28mmからの標準ズーム
28mmからの標準ズーム

80年代に入ると、ズームレンズも一般化してきましたが、28mmから始まる標準ズームレンズは、1977年にAi Zoom Nikkor 28-45mm f/4.5が市販化されていますが、1985年にAi Zoom Nikkor 28-50mm f/3.5Sや28-85mm f3.5-4.5Sされるも、それより高倍率のものは90年代に入るまで市販化されませんでした。
しかし、AFレンズ登場以前に、こうして28-105mmや28-135mmが試作されていたようです。発売されなかったのは、この頃AFカメラとレンズが登場し始め、マニュアルレンズとして試作されたこれらのレンズをAF化するのが、難しかったのかもしれません。
AFレンズの登場は、AF駆動させるフォーカシング群の設計に影響を与え、この時代はその狭間として、MFなら市販化されたかもしれないレンズも、時代背景から市販化が難しかったのかもしれません。


●AI AF Zoom-Nikkor 35-70mm f/3.5
AI AF Zoom-Nikkor 35-70mm f/3.5

AI AF Zoom-Nikkor 35-70mm f/3.5は、写真のF3が発売される1年前の1979年に試作されたようです。このスペックのレンズ自体は、1977年にAI Zoom-Nikkorで発売されていますが、外観はむしろ京セラCONTAXっぽいですね。下に巨大な外付けAFユニットがあり、この試作が、後のF3AFにつながっているのでしょう。


●AI AF Zoom-Nikkor 35-70mm f/3.5 AI AF Zoom-Nikkor 50-135mm f/3.5S
AI AF Zoom-Nikkor 35-70mm f/3.5 AI AF Zoom-Nikkor 50-135

AF時代の夜明けです。
右のAI AF Zoom-Nikkor 50-135mm f/3.5Sは、ズームレンズはF3AF用レンズは登場しなかったのですが、試作はされていたようです。中途半端な焦点距離ですね。

お隣のF4とAI AF Zoom-Nikkor 35-70mm f/3.5は、市販化されましたが、外観は市販品以上にそっけない、悪くいうと安っぽい感じです。80年代後半から90年代の、過度なプラスチック信仰の弊害ですね…。軽量化には寄与したとは思いますが。


●Nikkor-P Auto 135mm f/3.5  Nikkor-H Auto 85mm f/1.8
Nikkor-P Auto 135mm f/3.5  Nikkor-H Auto 85mm f/1.8

時代はまた戻り、望遠レンズです。
自分が持っているレンズだと反応してしまいます。外観が異なりますが、85mmは製品版に近い感じがします。


●Reflex-Nikkor 250mm f/8  Nikkor-P Auto 200mm f/4
Reflex-Nikkor 250mm f/8  Nikkor-P Auto 200mm f/4

Reflex-Nikkor 250mm f/8なんてレンズも試作されているとは。Reflexは市販化されたのが500mm以上でしたが、こんなに焦点距離の短いReflexは見たことがありません。
確かに小型軽量でしょうが、250mmというスペック、Reflexレンズは構造上f/8で絞り機構がないので、感度がフィルムに依存してデジタルのように簡単に変えられなかった時代、使い勝手も悪かったでしょうね。

奥のNikkor-P Auto 200mm f/4は、1976年にNew Nikkorで発売されていますが、New Nikkorになるにあたり、レンズ枚数を示す-Pといった記号は表記されなくなります。


●Nikkor-H Auto 300mm f/4.5
Nikkor-H Auto 300mm f/4.5

Nikkor-H Auto 300mm f/4.5は、同スペックのレンズとしては1964年に発売され、その後何度かに渡って改良を加えられた名レンズですが、1972年に試作されたこのレンズは、何故か外径が太くなっています。その後、New Nikkor化されることになりますが、デザインの試行錯誤もあったということでしょうか? 黄色いレンズキャップが良いですね。


●Nikkor-H Auto 400mm f/5.6
Nikkor-H Auto 400mm f/5.6

これまた興味深いレンズです。
このデザインでは量産されていない、と書かれていますが、そもそもNikkor-H Auto 400mm f/5.6というスペックのレンズは発売されていないからです。
400mmでf/5.6というスペックのレンズは、Nikkor-P C Autoで1973年に発売されていますが、その後もNikkor-Hの記号、Hの6枚構成という400mmは、知る限り市販化されていません。
このスペックのレンズは、フレネルレンズを採用したPFレンズとして、市販化が期待されています。まあ400mmだと、f/4でないと商売的には難しそうですが。


●Nikkor ED 600mm f/5.6
Nikkor ED 600mm F5.6

1年後に市販化されるAi Nikkor ED 600mm F5.6(IF)の試作品でしょう。
焦点距離が長くなるに連れて発生する色収差を抑えるためのEDレンズが開発されたことで、一気にEDレンズ採用のレンズが増えたこの時期、超望遠単焦点レンズの幕開けとして開発されたレンズです。
絞りリングを見ると、この時点ではAI化されていないようですね。


●AI Zoom-Nikkor 70-250mm f/3.5-4.5S
AI Zoom-Nikkor 70-250mm f/3.5-4.5S

これもなかなか興味深い。80-200mm f/2.8Sや70-210mm f/4は1982年に発売されていますが、このような望遠ズームレンズでf/3.5から始まり、200mmを超えるものはあまり例がないからです。
惜しむらくは、1985年というAFカメラ発売の年であり、その後多くのレンズをAF化しなければならなかったこの時代、AF機構を組み込むとより大きく重くなるため、市販化されなかったと思われます。


●Auto Nikkor Telephoto-Zoom 100-600mm f/5.6
Auto Nikkor Telephoto-Zoom 100-600mm f/5.6

何というスペックのレンズだ!
Auto Nikkor Telephoto-Zoom 20-60cm F9.5-10.5というレンズは、1961年に発売されており、このスペックもまたすごいのですが、その更に上を行くのがこのレンズ。
超望遠で自動絞り、6倍ズームというだけでもすごいのですが、それが開放f値f/5.6固定なのです。200-600mmは、その後f/9.5や180-600mm f/8Sといったスペックで改良はされているものの、それより1段明るい本レンズ、その扱いは相当に難しかったのではないでしょうか。
先ごろSIGMAから60-600mm F4.5-6.3というレンズが発売されましたが、半世紀の時を越えてやっと時代が追いついた、といったところです。

如何でしょう? 驚きのレンズから、市販されたあのレンズの試作品まで、すべて紹介しきれませんが、市販されるレンズの影に、日の目を見なかったレンズたちがたくさんいたわけです。
こういったレンズを廃棄せず、後世のために保存しているNikonは偉い!

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